こんにちは。北陸型木の住まい研究会の多賀です。
今、住宅業界では「高断熱住宅」のインフレが止まりません。
長らく義務化が見送られてきた省エネ基準義務化が2025年4月に開始になり、5年後の2030年には義務化の基準が引上げられる予定です。住宅補助金の適合レベルも年々引き上げられていることも関係し、これからの数年で新築住宅の断熱性能レベルは間違いなく上がっていくと予想されます。
家づくりを検討中の方であれば、「断熱」は必修で勉強されていることだと思いますが、その知識は古くなりつつあるかもしれません。
今回はトレンドの「高断熱」をテーマに、今目指すべき断熱のレベルや、高断熱住宅をつくるために適した工法をご紹介します。
家づくりの必修科目である「断熱」をおさらいし、一緒に家づくりの知識をアップデートしましょう!
<1>断熱性能のグレードをおさらい
まずは断熱性能を表す指標をおさらいしていきましょう。
「省エネ基準」「断熱等性能等級」「ZEH」「GX」など関連するワードが多くあり混乱しやすいため、下の図に整理してみました。
断熱等性能等級
断熱性能を表す指標として一番有名なのは、「断熱等性能等級」です。性能表示制度の表示項目の1つで、今回は説明を省いていますが、「一次エネルギー消費量等級」と併せて各種補助金や制度の基準に使われています。
HEAT20
民間団体である「20年先を見据えた日本の高断熱住宅研究会」が定めたもので、断熱等性能等級の上位グレードが発表されるまで、高断熱住宅といえば「HEAT20のG2やG3」でした。
ZEH
2015年に資源エネルギー庁にて定められた基準です。CMでもZEHをうたっている住宅会社が多いため、聞いたことがある方がほとんどだと思います。発表されて10年になりますが、今でも「ZEH」や「ZEH水準住宅」は補助金の対象となっています。
実はZEHは基準の引上げが検討されています。まだ決定はしていませんが、新ZEHはGX志向型住宅と同じ断熱等性能等級6レベルで2027年より認証開始予定で検討されています。
新ZEHの新しい定義はまた別の機会にご紹介したいと思います。
GX志向型住宅
今年度の補助金である「子育てグリーン住宅支援事業」の要件として発表された最新基準です。
新ZEHが同等基準に引き上げられることからも、指標としては残らない可能性が高いです。
これらの指標の全てにおいて、断熱性能の基準に使われているのが外皮平均熱貫流率、通称Ua値(ユーエーチ)です。これは家の外皮から逃げる熱の平均値を表したもので、数値が低いほど断熱性能が高い(暖かさや涼しさを逃がしにくい)ことを示しています。
また現在の義務化基準は断熱等性能等級4ですが、2030年に等級5に引き上げられる予定となっています。
最近の断熱性能界隈の変化は目まぐるしく、数年先の予測も難しい状況ですが、政府の「高断熱」への舵取りはまだしばらく続きそうです。
では、今から建てる家はどのレベルにしたら良いのか?
答えは「等級6以上」です。
<2>断熱性能を上げる方法とは?
5、6地域の等級6のUa値基準は0.46W/㎡・K以下、等級7は0.26W/㎡・K以下です。
ほとんどの住宅会社では、これまでより断熱性能を上げる必要があります。
断熱性能を上げる方法は、大きく分けて4つあります。
①断熱材の厚みを上げる
最も簡単な方法です。ただし施工できる厚みに限界があり、最大限厚みを増やしても目標に届かないこともあります。
②断熱材を性能の高いものに変える
大幅な性能アップが期待できますが、住宅会社では使い慣れた断熱材を施工する方がミスを減らせるため、優先順位は低くなります。
③開口部(窓・ドア)を性能の高いものに変える
①に次いで簡単な方法です。ペアガラスのサッシからトリプルガラスのサッシに変えるなど、大幅な性能アップが期待できます。
④断熱材の施工方法を変える(充填断熱→外張り断熱)
これが最も効果が高い方法になります。
外張り断熱は、同じ断熱材の厚みでも充填断熱に比べて断熱性能を高くできます。
<3>外張り断熱はなぜ断熱性能を高くできる?
「充填断熱」は、柱の間に断熱材を入れる工法です。柱である木材は断熱材に比べて断熱性能が劣るため、木材部分から熱が逃げやすくなります。このような木材をヒートブリッジ(熱橋)と呼びます。
「外張り断熱」は、住宅の構造体(柱や梁)の外側に断熱材を取り付ける工法です。ヒートブリッジとなる木材を断熱材で覆うことで熱が逃げやすい部分を作らないため、断熱性能を高くすることができます。
同じ種類、同じ厚みの断熱材をそれぞれ「充填断熱」と「外張り断熱」に使った場合のUa値への影響を計算してみたところ、外張り断熱が0.1W/㎡・K良くなる結果となりました。
ちなみに充填断熱の性能を外張り断熱と同等まであげる場合は、充填断熱は85㎜必要になります。
またそれぞれのメリット・デメリットをまとめました。
充填断熱
<メリット>
・最も普及している工法、施工が簡単で安価にできる
・施工のタイミングが選べる(後からでも施工できる)
<デメリット>
・柱の間に断熱材を入れるため、施工できる厚みに限界がある
・木部がヒートブリッジとなり、熱が逃げやすい
・壁の中に断熱材が入るため、配管や配線の施工が煩雑になる
(施工に問題があると気密性が確保できず、内部結露に繋がることがある)
外張り断熱
<メリット>
・ヒートブリッジが少なく、断熱性能を高くできる
・壁内部の空間を有効利用できる(ニッチ、配線スペースなど)
・気密性が取りやすく、内部結露の心配がない
<デメリット>
・断熱材が厚くなるほど、断熱材の固定など施工が複雑になる(外壁脱落の危険性)
・充填断熱に比べて価格が高くなる
・施工のタイミングが限られる(上棟後すぐに施工しないと防水工事ができない)
・屋根を外張り断熱とする場合、太陽光パネルの設置ができない場合がある
・基礎を外張り断熱とする場合、白蟻被害の危険性が高まる
木造住宅の現在の主流は充填断熱です。
「施工性」と「価格」、それから「求められる性能が充填断熱でも厚みを増せば達成可能な範囲だった」という理由から、外張り断熱はこれまで普及してきませんでした。
ですが今後、等級6や等級7を目指すとなった場合は、充填断熱では対応に限界があります。
外張り断熱への変更も考えられますが、外張り断熱を厚くすると固定が難しくなることから、あまりお勧めはできません。
これからの高断熱化時代へ対応していくためにお勧めしたい工法は、充填断熱と外張り断熱を併用した、「付加断熱(ダブル断熱)」です。
<4>付加断熱の効果とは?
付加断熱の最大のポイントは、断熱材の厚みを厚くできるため、大幅な断熱性能の向上が期待できることです。
<メリット>
・断熱材の厚みを厚くできるため、高断熱仕様に対応できる
・ヒートブリッジが少なく、断熱性能を高くできる
・充填断熱のみの場合に比べて気密性が取りやすく、内部結露の心配が少ない
<デメリット>
・外張り部分は断熱材が厚くなるほど、断熱材の固定など施工が複雑になる(外壁脱落の危険性)
・充填断熱、外張り断熱に比べて価格が高くなる
・外張り部分は施工のタイミングが限られる(上棟後すぐに施工しないと防水工事ができない)
試算してみた例では、壁の断熱変更だけで等級6をクリアできました。
さらにここから他の部位の断熱厚み変更、開口部の仕様変更を行うことで、等級7のクリアも可能になります。
また付加断熱では、充填断熱と外張り断熱で違う種類の断熱材を使用することも可能となります。
既に取り組んでいる住宅会社も多く、住宅会社ごとに得意な断熱材があり、施工性やコストの面で工夫するなど、様々な取組がなされています。
等級6や7の高断熱住宅を求めるのであれば、付加断熱を得意とする住宅会社を探してみると良い出会いがあると思いますよ。
<5>断熱工法に迷ったらラボに見に行こう!
高断熱住宅の常識が変わりつつある現在では、断熱性能を住宅会社まかせにしておくのはお勧めしません。
自分の家づくりにおいて目標とする断熱性能を一度じっくり考えてみください。
それでも、どこまでのレベルにすればいいのか、どんな断熱材を使って、どんな工法にすればいいのか、実際のところ迷ってしまうと思いまいます。
そんなときはラボにお越しください。今回説明した内容に加え、断熱材の違い、工法の違い、さらには省エネ効果についても詳しく解説します。付加断熱も見ることができますよ。
言葉では分かりづらい「高断熱住宅の快適さ」も目で見て・手で触れて・納得できる場所です。
家づくりのヒントをもらいに、ウッドリンク・ラボへお越しください。
断熱のプロがあなたの疑問にお答えします。